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ホステル
今回予約したホステルは、1階に銭湯があり、2階部分に宿泊スペースがある施設だ(https://peraichi.com/landing_pages/view/wanokaze2017)。名前を告げるとおばあちゃんが応対してくださり、とても安心した。やっと居場所を見つけた。案内された部屋は4人部屋だったが今日は一人で使っていいと言われた。ラッキー。ホステルの中は旅情を誘う渋さで、ラウンジも銭湯の番台みたいでリラックスできる空間。とても好みだった。小樽では毎回ここに泊まろうと決めた。
300円を払うと1階の銭湯に入ることができる。迷わず入ることにして、銭湯へ向かった。昭和を感じさせる室内は、レトロながら清掃が行き届いている。お湯は天然の温泉のようだ。体を清め、「中温」と書かれた浴槽につかる。熱い。全く中温ではない。ゆっくりと体を慣らすように入浴した。徐々に体が慣れてきて、気持ちよくなってきた。今日の1日を思い出した。心から安心できる瞬間。
横に「高温」と書かれた浴槽があった。気になった。入ってみると、浴槽が深い。腰のあたりまでお湯があり、これは体の芯まで温まる。サウナよりもむしろ保温効果が高いのではないか。5分ほど高温に耐え、何も考えられなくなった状態で横にあった天然水の水風呂に入った。水温はきりっと冷えていたが、一瞬で体を羽衣がまとい、適温になる。息が冷たく感じたくらいで、桶を使って水を被る。完全にととのった。
洗い場に置いておいた椅子に座り、10分ほど無心となる。日常などどうでも良いことに感じてくる。もう1セットを行い、完全にリラックスした状態で銭湯を出る。
湯上りと至福の時
ラウンジにあった昔ながらの自動販売機でカルピスソーダを飲む。カルピスソーダを飲みながら今回の原稿を書いている。
何も考えない。自分と世界しかないという感覚になる。世界とは自分の捉え方によって内容はいくらでも変化する。故に、世界には自分と世界しか存在しないという考え方は正しいのだと思う。夜のラウンジは私と店主のおばあちゃんしかおらず、静かな空間。ホステルで好きなのは、特に何を話すわけでもないが、無言で夜を分け合う感じのするこの瞬間だ。生活は別々ながら、同じ空間を共有する。適度な距離感が心地よい。
この原稿を書いていると、だんだんと銭湯の熱が外に出ていき体温が下がり始めた。先日マレーシアで買ったTシャツと半ズボン1枚で過ごしていたので、肌寒くなってきて自分の部屋に戻った。
部屋は4人部屋だったが今日は私しかおらず、貸し切り状態だった。仮に4人いたら、やや狭い部屋だったので合宿みたいな雰囲気になっていたのだろう。枕元に電球が1つ付いていて、オレンジ色の光の下で読書をした。今回持ってきた本は、沢木耕太郎の深夜特急だ。旅をしながらこの本を読むとなんとも言えない幸福感を感じられる。ブックオフで買った。深夜特急みたいに旅と相性の良い本は、きっと前の持ち主もどこかの国に旅をしながら読んでいたのではという想像も広がり、中古で買うと本自体に物語性があるような気がしてくる。前の持ち主は旅をしながら何を思い、その後何をしているのか。旅は彼/彼女の人生を変えたのだろうか…
灯油ストーブの香りを鼻で感じながら、本を読む。気づいたら意識を失い、睡眠に精神を持っていかれた。
朝が来た。8時ごろに目が覚めると、ラウンジに向かった。ラウンジには誰もいなくて、少し肌寒かった。祖母の家の朝は、こんな感じだった。ラウンジで朝ご飯を食べると一人きりなのが寂しくなりそうだったので、何も考えないようにして荷物をまとめ、宿を後にした。きっとこの宿はまた来ることがあるだろう。
外に出ると、昨日とは違って青空と澄んだ空気、鋭く冷えた小樽の空気があった。心から呼吸をして、今日は早めに帰ろうと決め、小樽駅に向かった。列車は朝の札幌に向かう人で席が埋まっていた。人波に混じるようにして、札幌に向かった。