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夜の展望台に向かう
小樽駅に車を戻し、ふと思った。通行止だからといって旭展望台に行かなかったことを後悔し始めていた。歩きであれば通行止は関係ない。なぜあそこで引き返してしまったのか。
そう思い始めると非常に悔いの念が出てきてしまい、徒歩で旭展望台に向かっている自分がいた。この時点で17時。旭展望台までは2㎞程度と歩けない距離ではないが、登坂があるため息は上がる。普段運動をあまりしない私は、徐々に体が熱を帯びてくるのを感じた。早歩きで通行止に向かい、15分程度で到着した。通行止の脇には30㎝程の隙間があり、徒歩では上に向かうことが可能。
徐々に迫ってくる夜の闇に怯えつつ、通行止を通り抜け、徒歩で山頂を目指す。両脇には自然が迫ってきており、私は完全なる部外者。このあたりはヒグマも出るようだった。感覚は研ぎ澄まされ、草の音や動物の気配を感じながら山を登る。
通行止から15分ほど進んだ時には、あたりは完全に暗くなっていた。暗闇の中に取り残され、完全に孤立した。歩みを止めると取り返しがつかないような気がしたので、ひたすら早歩きで歩く。暗くなってから10分ほど歩いた時、Google Map上では展望台まであと1㎞のところでカーブを通り過ぎると、数百メートルのまっすぐな道路にたどり着いた。
まっすぐな道路を見た私は、なぜか恐怖を感じた。今まではカーブが連続していたため道の突き当りが見えていたのだが、暗闇の中の直線は奥が見えない。闇に吸い込まれるような感じがする。左右の道幅も狭く、少し嫌な空気を感じた。人間の本能に訴えかけるような恐怖感に、先に進めなくなった。帰ろうと思った。
Uターンし、早歩きで山を下りた。後ろから何かがついてきているような気もして、後ろを振り返りつつ、ヒグマがいるのではないかと周りを見回しつつ、早歩きで進む。10分程度進んだところで、小樽の夜景が見えた。
そして、山の入り口である通行止のバリケードで先に進めなくなった車が引き返している光が見えた。通行止の看板は、人間の世界と山の世界を隔てる境界だった。向こう側の人間からきっと私を見つけることはできないが、こちらにいると人間の光は簡単に見つけることができる。動物の気持ちが分かったような気がした。自分は静かに山を登ったつもりだったが、自分の存在は動物たちに見透かされていたのだろう。
通行止の境界まで戻ると、足早に人間の世界へ戻った。少しずつ家が増えてきて、通りへ出ると市バスが走っているのが見えた。助かったと思った。体の力が抜けるような感じがして、同時にお腹が空いてきた。何か食べたい。
中華料理を食べる
一番先に見つけた店に入ろうと思ったが、見つけた中華は店じまいの時間だった。もう19時だった。2時間闇の中にいたことになる。旅の食事で一番安心できるのは中華である。Google Mapで近くに中華料理屋を発見したので、そこに向かった。小樽市にあるアーケード街の中に、その店はあった。小さな店だが、麻婆豆腐定食と餃子定食、天津飯がある。それと同時に海鮮ラーメンや鰻丼、蟹ラーメンといった観光客向けのメニューも置いてある。本来のメニューと観光客向けのメニューが共存しているのが小樽の特徴か。
私は中華派なので麻婆豆腐定食を注文した。麻婆豆腐は花椒が効いたタイプのもので、かなり辛かった。本場に近いのだろうか。メニューは日本の中華というより、中国の中華という感じがした。