元々、インドに来ようと思ったのは思い付きだった。インドは人生を変えるとまことしやかに話されることがあるが、学生時代に1か月間滞在したインドでは自分の人生が大きく変わることはなかった。
今回のインド・パキスタンは少し違っていた。まず、学生時代のインドとは違って自力で全てを手配し、衛生的に不安のあるものも含めて現地人と同じものを食べるように心がけた。アムリトサルでは人の営みを見た。私がインドの人たちから感じ取ったのは、食事と祈りと繁殖が人にとって原点にあるということ。日本にいると些末なことに囚われてしまいがちになるが、長い人生においては全て少しの差に過ぎない。食事を食べ、自分の信じるものに対して真摯に向き合い、家族と子供を大切にする。インドの人たちは愚直にこれを守り、日々を紡ぐ。そんな人たちから学ぶことは大きいだろう。
パキスタンでは私自身の考え方が変わった。8年間付き合った彼女を突然失った。理由は分からないが、人生の考え方を変える必要があるということなのだろう。傷心の私を襲ったのは野良犬で、足首に怪我をし、病気の恐怖を味わった。現金はなく、異国の地で焦る私を受け入れてくれ、治療を施し、無償で命を救ってくれたパキスタンの人々を忘れることができない。彼らだって余裕がある訳ではない。国立病院であり、お金に余裕がない可能性もあるのに、彼らは純粋な善意で自分を救ってくれた。
日本で生活する私だが、命なんていつ終わっても良いと思う時があったし生活することの幸せを忘れることがあった。しかし、インドやパキスタンの旅に出て、パートナーを失い、命について考え、手本となるべき生き方をする人に出会い、多くのものを失い、多くのものを得た。今の目標は、少しでもきちんと生活を全うして、パキスタンの人々に自分のできる形での恩返しをすることだ。
インド・パキスタンの今回の旅は、自分にとってのターニングポイントとなる旅だった。